セミナーの出だしに倉園佳三さんは、ご自身の若いときの写真を私たちに見せました。
ミュージシャンらしい、当時ではかなりとがっていると見られたであろう外見です。
現在倉園佳三さんは59歳。先ほど見せた若いときの写真の頃より、元気に前向きに生きていると述べました。
そして私たちに質問を投げかけました。
「今の自分に完全に満足の人はいますか?」
私を含めて手を上げた人は誰もいませんでした。
倉園佳三さんは、もし自分がその問いを受ければ、なんの迷いもなく手を上げると断言しました。
なぜ、私たちは手を挙げることを躊躇してしまうのでしょうか。
倉園佳三さんは、自分が手を上げるかどうかを判断するときに、裁定者がいるはずだと解説しました。
裁定者は私たちの過去の実績にもとづいて、これから先の将来が完全かどうかを判断したはずです。
今の自分が完全かどうかを判断しようとしているのに、過去と未来の二つの情報を必要としているのです。
このような裁定には私たちの社会が合意しているある一つの考え方が背景にあります。
私たちは現状にとどまらず、成長していく存在であるという考え方です。
倉園佳三さんは、この考え方で果たしてうまくいくのだろうかという疑問を投げかけました。
倉園佳三さん自身も40代後半まではその考え方に乗っかって生きてきたそうです。
しかしこの考え方では、いつまでたっても結果に満足できないというジレンマを抱えてきたそうです。
そして、右肩上がりの成長を善とする考え方には、現状に満足してはいけないという仕掛けがかかっているため、永遠に満足は得られないと気づいたのです。
私たちは何をもって右肩上がりと思っているか
モノを得ること
ずっと欲しかった高級外車を買えた、家を持てたなど、欲しいものを手に入れることで私たちは成長を感じることができます。
しかし、世間の人がうらやむような豪邸であっても、一旦そこに住んでしまうとそれは日常になり、住み始めたときの感動は年月とともに失われていきます。
欲しいものには意味づけがあると倉園佳三さんは解説しました。
意味づけはストーリーであり、それを得たときから薄まっていきます。
倉園佳三さんは過去に毎月服を20万円分買っていたという話を明かしました。
最初は服と一体になった気がして自分の価値が高まる気がしたが、すぐに飽きて半年前に買った服ですら着なくなってしまったそうです。
モノを得ようとする限り、いくらモノを得ても足りないという意識は消えることはないのです。
他人からの評価
もう一つはモノではなく他人の心です。
他人からの評価が上がることで、自分の成長を感じることができます。
倉園佳三さんは、これを維持していくことは、モノを得ることよりもずっと厳しいと述べました。
かつて倉園佳三さんは、インターネットマガジンの編集長になったとき、テレビにレギュラー出演するくらい有名になり、自分が何者かになったと感じたそうです。
しかしそれは、自分は一切変わっていないのに、「他人の評価」によって高められていただけだったと、その当時を振り返りました。
その後、インターネットがますます世の中に広まることによって、皮肉にも雑誌であるインターネットマガジンの売り上げは落ち続けました。
倉園佳三さんの感覚では、記事のクオリティは売れ行きが好調だったときよりもはるかに高めたにも関わらず、周りから人がどんどん去っていったそうです。
世間からちやほやされていたとき、ひとときも幸せを感じることはなかったと倉園佳三さんはその当時を振り返りました。
時間とは人が創ったもの
倉園佳三さんは、「時間」とは人が創ったものであると述べました。
人が創ったものには目的があります。
右肩上がりの人生という共同幻想を根付かせるために「時間」は不可欠だったのです。
右肩上がりとは絶対評価ではなく、相対評価です。
時間とは相対評価をするための尺度なのです。
右肩上がりの成長のために「計画」がある
私たちは右肩上がりを実現するために、「計画」という形で「時間」を使うようになりました。
倉園佳三さんには「計画」とは防御であると解説しました。
計画を立てる人の心の中には下記のような前提が潜んでいます。
「このままだと私は成長できない。自分は弱いから変えていかなければならない。」
計画を立てた瞬間に、このままではダメだという事実が確定するのです。
その事実のまま物事を進めていくからうまくいかないのだと倉園佳三さんは強調しました。
「計画」には「いまここ」がない
計画を立てるために使っているデータは過去の実績です。
うまくいかなかった実績やうまくいった実績をもとにしています。
それは過去の繰り返しを続けることになることを意味します。
未来を変えようとしても変えられないのは、過去のデータにもとづいた計画を使っているからなのです。
この発想には「いまここ」が抜け落ちています。
「過去」と「未来」は思考の中にだけ存在する
「計画」によってたどり着こうとしている先は「未来」です。
しかし「未来」とは「いまここ」には存在しないものです。
倉園佳三さんは、なぜ最初にご本人の写真を見せたかをあらためてこのタイミングで説明しました。
そのときの倉園佳三さんは「いまここ」には存在しないということを言いたかったからだそうです。
「過去」も「未来」も私たちの思考の中にしか存在しないのです。
私たちは「時間」を忘れて遊んだという経験を誰もが持っています。
人の脳は「時間」を感じるようにはできていないようです。
思考の中にしかないものは「イリュージョン」です。
しかし、私たちは時間を尺度にして右肩上がりで成長する存在として、育てられ、教えられてきました。
集団で共有された「イリュージョン」は、私たちの社会では現実となってしまいます。
私たちは「過去」と「未来」という思考に支配されているのです。
計画がうまくいかない理由
やるべきことを先に決めるからうまくいかないと、倉園佳三さんは強調しました。
未来とは思考の中だけにあり、実際に未来を見ることができる人はいません。
しかし私たちは、未来に目標を立てて、計画に従って行動しようとします。
計画を立てると「期限」が発生します。
このことで、時間がないという錯覚に陥り、割り込みや雑用を避けるようになります。
これは計画という思考に支配されて、「いまここ」を見失った状態で、倉園佳三さんは「計画原理主義」と表現しました。
運よく計画が達成できたとしても、どっちみち得られるものは、モノや他人の評価です。
前述したように、その後終わりのない欲望のループにハマり、それを維持することは大変厳しいため、私たちに幸せをもたらすことはありません。
「いまここ」を感じる方法
私という肉体を感じる
「いまここ」というのは永遠です。
それを感じるための方法を二つ、倉園佳三さんは解説しました。
まず私が「いまここ」に肉体として存在していると感じることです。
私を含めた空間を感じる
もう一つの方法は、私の周りに広がる、私も含めた空間を感じるようにします。
倉園佳三さんは、この空間を舞台に例えました。
自分の肉体があるというのは過去にも未来にも感じることができますが、空間は「いまここ」でしか感じることはできません。
肉体としての自分と空間としての自分を同時に感じるようにするのです。
空間としての自分の前に出来事が出現します。
空間と出現はハイブリッドです。
それが「いまここ」が教えてくれることです。
「いまここ」から教えてもらうことより高いパフォーマンスが得られる方法はないと倉園佳三さんは強調しました。
二つ目の方法はなかなか難しい感覚で、まだ私には理解できているとは思えません。
散歩などでその感じ方を実験していきたいと思います。
今ここにはすばらしいことしかない
目標や計画の中ではなく、常に現実の中にいようとすることが大切です。
どこにたどり着くかは考えません。
行ったところがたどり着くところです。
計画に沿って行動することは過去や未来に生きていることになります。
「いまここ」に不足はないのです。
スキルや能力は人が創ったゲームに必要な単なるアイテムであり、不足と感じる必要はありません。
このことに気づいた瞬間に思考が変わると倉園佳三さんは力説しました。
時間が役に立つたった一つのこと
時間があることの恩恵は、人と人との間で約束ができることです。
約束は未来のことですが、約束を守ることは可能です。
未来は約束以外は全く必要がないと倉園佳三さんは断言しました。
時間がないとは
佐々木正悟さんは、タスクシュートの実践から導き出した時間についての考え方を展開しました。
その考え方はグッドバイブスの考え方と酷似しています。
私たちは「時間がない」という表現を、以下の理由で使っています。
- 予定の時刻に間に合わない
- 約束の期限に間に合わない
- 予定の日まで結果を出せるようにできない(試験など)
- 今日中にやりたいことを今日中に終わらせられない
- やるべきことが多すぎる
- やりたいことが多すぎる
- 今すぐやってもすぐに切り上げなくてはならなくなる
- やる気がしない
「時間はない」ということはない
佐々木正悟さんは「時間がない」ということはない断言しました。
佐々木正悟さんは、1から8の状態がなぜ「時間がない」ことにならないのか、順に解説しました。
8. やる気がない
「時間がない」という表現をやる気がないことの言い訳として使っているので、本当に「時間がない」訳ではありません。
7. 今すぐやってもすぐに切り上げなくてはならなくなる
数分でもやることができます。ただ時間がないという気がするだけです。
たった数分の作業でどれくらいの結果が得られるか、タスクシュートをやっていれば事前の予想との違いを認識することができます。
6. やりたいことが多すぎる 4. 今日中にやりたいことを今日中に終わらせられない
佐々木正悟さんは、タスクシュートアプリの「たすくま」でやり残したタスクのリストを私たちに見せました。
そのタスクは常に100個くらいあり、0時から1時のセクションに残しているそうです。
そのリストは時間があろうがなかろうが、やる必要がないから残り続けているもので、時間がないから残っているのではないと佐々木正悟さんは解説しました。
5. やるべきことが多すぎる
このようなときはガントチャートで対処するのが一般的です。
しかし長期的なプロジェクトの期間中には予期せぬアクシデントの発生はつきもので、ガントチャートの通りに進みません。
それらを予想するのは不可能であり、「時間がない」からガントチャート通りに進まなかったのではありません。
3. 予定の日まで結果を出せるようにできない(試験など)2. 約束の期限に間に合わない
佐々木正悟さんは、先の日程を考える必要はない、毎日繰り返すだけ、と強調しました。
たすくまのタスクの90%以上は毎日の繰り返しであると、佐々木正悟さんはご自身のデータを元に解説しました。
毎日の繰り返していることは、「依頼」にこたえることです。
依頼とは、自分の肉体からの依頼と、社会的な要請(佐々木正悟さんの場合は原稿、ミーティングなど)です。
社会的な要請と肉体からの依頼は同等に考えるべきと佐々木正悟さんは強調しました。
つまり、食欲と原稿は同じだと考えるのです。
原稿も、食事と同じように、間に合うか間に合わないかによらず、毎日繰り返すだけなのです。
そして食事の報酬と同じように、原稿を書くことにも毎回報酬が生まれます。
間に合うか、間に合わないかは、佐々木正悟さんはすべて運と考えると述べました。
このことを心理学の成功と失敗の帰属理論を用いて解説しました。
人が成功や失敗の原因をどのように帰属させるかは下記のように4つの要因に分けられます。
未来のことは不安定要因だから、間に合うかどうかは「運」でしかないとの考えです。
安定要因 | 不安定要因 | |
---|---|---|
内的要因 | 能力 | 努力 |
外的要因 | 課題の難易度 | 運 |
1. 予定の時刻に間に合わない
この状態だけが「時間がない」と言っていいと佐々木正悟さんは述べました。
たすくまを使っていれば、その画面を見ると、予定の時間に間に合わないことはすぐにわかります。
それは事前に調整が可能となります。
結論として、「時間がない」ということはないということになります。
まとめ
「計画」がなぜ思い通りの結果をもたらさないかをあらためて知ることができました。
倉園佳三さんの「未来にやることを決めるからうまくいかない」という言葉がもっとも衝撃的でした。
これは私たちが受けてきた教育とは真逆の考え方です。
まず目標を明確に定めなさい、そうしなければそこにたどり着くことはできませんと私たちはずっと教わってきました。
私は「未来」と「過去」という思考にがんじがらめに支配されていたと痛感しました。
この長年の思考のクセはすぐに変えられるとは思いません。
毎日、繰り返して「いまここ」を感じるワークを取り入れていこうと思います。
そして今の自分に完全に満足していると自信を持って答えたいと思います。
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