『逃げられない世代』【レビュー】 今後20年の日本財政の流れがわかった

宇佐美典也さんの著書『逃げられない世代―日本型「先送り」システムの限界―』の年金の部分について再度読み直しました。

前回書いたレビュー記事では、財政問題について焦点を当てました。

その中で国債の国内消化の限界はあと20年で、20年後(2037年)に財政規模の急激な縮小を起こさないためには、消費税を20%まで上げていくこと、社会保障の縮小を受け入れなければならないことがわかりました。

今回は年金問題はどうなるのかに焦点を当てたいと思います。

最近読んだ野口悠紀雄氏の著書では年金の債務は国債残高の60%になっていることを知りました。

すでに納付を終えた世代に対する年金の積立額は500兆円も不足しているのです。

これからの年金制度をどうやって維持していくかを元官僚の宇佐美氏がどのように分析しているのかを読み直してみようと思いました。

現在の年金給付はどうなっているのか

2017年の社会保障給付は120兆円です。

120兆円をどうやって調達しているかというと、被保険者と事業主が納めている保険料が60%、残りが国と地方からの税金となっています。

社会保障給付の額はGDPの22%にものぼり、保険料だけではまかなえないため、40%を税金で補填しているというのが現状なのです。

社会保障給付の内訳は年金47%、医療32%、その他福祉20%となっています。

年金の今後の見通しは

2042年に65歳以上の人口は3500万人から400万人増えて、3900万人なります。

年金給付のピークはこの時代になります。

2042年以降は高齢者の人口は減っていきますが、後期高齢者人口は2054年にピークを迎え、現在より700万人増の2450万人になります。

この頃、医療、介護の給付がピークになると考えられます。

2018年5月に2040年の財政のあり方の議論が始まりました。

議論のための素材資料は、ベースラインケースと成長ケースの2パターンを試算しています。

ベースラインケースでは、2027年度の名目GDP成長率は1.7%、2028年度以降は1.2%としています。

2016年までの過去20年の成長率が0.3%しかなかった現実を踏まえていない検証には、リスクが伴っています。

そのベースラインケースでも、2017年に対GDP比で20%だった社会保障給付は、2040年に最大で24%に増加します。

この増加は消費税換算では6%になります。

さらに前回のレビューでも書いた通り、毎年25兆円の財政赤字を解消するための増税も必要となっており、それを合わせると、2040年の対GDP比は22%、2050年までに30%という計算となります。

経済成長しない場合は、年金だけでなく、社会保障全体を含めて大幅な給付と負担の見直しが必要になることは明白です。

年金積立基金とは

年金が他の社会保障と違うところは、積立金があるということです。

その他の社会保障は、被保険者が支払った保険料が、その年度内にそのまま受給者の給付に当てられます。これが賦課方式という負担の方法です。

しかし、年金は基本は賦課方式としながら、積立方式もプラスされています。

積立制度が始まった当初は、人口比と寿命の要因で積立金が余ったため、現在までそれが運用されています。

これは2001年から2039年までは使わずに、将来のために運用していくことになっています。

それを60年かけて取り崩して使っていくというのが、政府が100年あんしん年金と呼んでいる理由です。

この100年に必要な厚生年金は1920兆円とされています。

うち1370兆円は保険料、380兆円が税金でまかなわれ、170兆円を運用した積立金で補う試算になっています。

年金積立金の運用については、株の比率が高まっており、株価によって積立額が大きく変動します。

2017年時点では株高で162兆円まで拡大していますが、2011年には119兆円にまで落ち込んだこともあります。

年金積立金は、年金を受給する国民にとって重要なので、株を持っていない国民にとっても、株価の推移はひとごとではないのです。

まとめ

野口悠紀雄氏の書籍により、年金の不足分は国債残高の60%にのぼる債務になっていることを知りました。

あらためて、宇佐美氏の見解を読み直してみて、年金だけではなく、社会保障全体の財源を確保することが困難になっていることがわかりました。

先送りのつけは、納税者も、被給付者も等しく負担をしていくしかありません。