ダイヤモンドオンラインに掲載された、前日本女子卓球監督の村上恭和さんの記事の作成に関わる機会がありました。
そこで村上監督が語った内容は、共感できるもの1つ、意外だったもの1つがありました。
共感できたのは、あくまでも本人に気づかせるという指導方針です。
意外に思ったのは、将来強くなる選手をどうやって発掘するのかという問いの答えです。
それぞれ紹介します。
村上恭和さんの指導論 本人が自分で理解するように仕向ける
村上監督の指導方針は、自ら気づくように仕向ける手法です。ティーチング(教える)ではなく、コーチング(質問して気づかせる)で、時流にあった指導方針と言えます。
教えられた選手は、自分で考えることをしなくなり、指導者に依存します。そのような選手は、指導者が見ていないところで努力することはありません。
「誰も見ていないところで努力するかどうか」、これは村上監督が強調したポイントです。
自分で気づいた選手は、指導者がいようがいまいが自分で努力します。
村上監督は自分で気づく選手のことを「理解力」のある選手と表現しました。
この指導方針は「主体変容」を中心思想とする原田メソッドの方針に合致しています。主体変容とは、他人や環境のせいにせず、自ら気づいて自らが変わるという意味です。
アドラー心理学とも合致しています。アドラーは「叱ってはいけない、ほめてもいけない」と教えています。叱る、ほめるというのは上下関係に基づく他者との関わりです。相手が子供であっても、生徒であっても、一人の人間として尊重して横の関係で助言、勇気を与えるのがアドラー心理学での関わり方です。
教えたり、叱ったりして、ある程度のレベルには引き上げられるけど、チャンピオンは育たないと、村上監督は語っています。
自分で気づくように、ヒントを与え続ける、これは忍耐力のいる指導方法です。一方で、選手の方は、叱られることはないという意味では優しい環境ですが、自分で気づくことができなければ、引き上げてもらうこともなく、チャンスを得ることはできない、という厳しい指導になります。
村上恭和さんの指導論 素質のある選手を発掘する方法
村上監督の選手発掘方法はとてもシンプルすぎて意外に感じました。
大会での成績で選ぶというものです。
僕は、将来伸びる選手に、過去の成績は関係ないと考えていました。むしろ、体の強さ、大きさ、技術の伸びしろ、地頭のよさなど、勝ち負けには表れない部分を重視すべきと思っていました。
しかし、考えてみれば卓球というのは、力強さや、技術の美しさを競う競技ではありません。いかに相手より先に11回目の得点を取るかというゲームなのです。体力、技術面で劣っていて、相手よりボールの力がなくても、タイミングをずらしたり、コース取りを工夫することで相手のミスを誘うことができます。それに加えて、精神面のコントロール、心理面の駆け引き、試合の流れ、などを制したものが試合に勝つのです。
そして、何よりも重要なのは、試合に勝ってきた選手というのは、内なる「自信」を持っています。試合で力を発揮するためには、「自信」が必要です。それは、実際に試合に勝ってきたという成功体験からしか生まれないのでしょう。
最近読んだ堀江貴文氏『新・資本論』では、お金のもとになる「信用」は成功体験にもとづく「自信」からしか生まれない、と述べています。
競技における「自信」と、ビジネスにおける「自信」はかなり違いますが、共通する部分もあります。
「成績」という成功体験で内なる自信を積み重ね、さらに成績を上げていくというのが伸びる選手なのです。
村上恭和さんの指導論 まとめ
今回村上監督から聞いた2つの考え方は、シンプルではありますが、とても厳しい考え方です。
卓球という競技で、勝つことを至上命題として与えられた、全日本監督という立場であったからこそ、言い切れる指導方法であり、選考方法であると感じました。
スポーツにおいてだけでなく、ビジネス、人生にも通じる考え方です。
ビジネス、人生は、勝ち負けについては、競技スポーツほどシビアではありません。何度負けても、再びスタートラインに立つことが出来るからです。
個人として、チームとして、どのように他者と関わっていくか、そして結果を出すために、自分の中にどうやって自信を積み重ねていくか、ということを考えさせられた取材でした。