本書は今騒がれている仮想通貨について、以下の2点を広範な切り口から解説した本となっている。
- 仮想通貨(ビットコイン)とはどのようなものか
- 仮想通貨(ビットコイン)はこれから世の中にどんなインパクトを与えるのか
この本を仮想通貨の対する知識が全くないまま読むと、ビットコインの仕組みの箇所でつまづいてしまう。
ビットコインそのものの仕組みについては現在多くの本やWebサイトに情報がある。それらも参考にしながら読めば理解が進みやすいだろう。
仮想通貨がもたらす影響については、経済学者ならではの観点から、社会、国家に大変大きな変化をもたらすと述べている。
あらためてお金の仕組みについて学ぶよい機会になった。
印象に残ったところをいくつか紹介する。
仮想通貨革命 野口悠紀雄著 ービットコインは始まりにすぎないー
現代の通貨はどこに問題があるか
この章が経済学者ならではの観点が示された箇所で、僕にとって一番興味深い部分だ。
「通貨」とは何か
通貨には現金と預金がある。
現金とは日銀券と硬貨である。現金は主に日常生活に使われている。ちなみに電子マネーは現金の変形にすぎないことが2章で解説されている。
また現金は法貨とされており、法律で強制通用力が認められていてそれが価値を支えている。
一方預金は現金の6倍の額が存在していて、現代の経済活動のほとんどは預金でやりとりがなされている。
預金でのやりとりとは、つまり情報のやりとりだ。そこに現金のやりとりはない。預金元帳に預金のやりとりが記載されるだけである。
ビットコインの送金のやりとりもこの方式を受け継いでいる。ブロックチェーンといわれる記録簿にその取引が記載される。
預金とビットコインの違いは、管理主体の有無だけなのだ。
通貨の価値は信用できるか
野口氏は現代社会の預金通貨は、きわめて不確かな基盤の上に運営されていると述べている。
部分準備制という発明により、銀行は預金額の数倍の金額の貸し出しができるようになった。これは信用創造と言われている。あくまでも一定期間に預金の払い戻し要求がないことを前提に運用されている制度だ。
2008年のリーマンショックでは預金取り付け騒ぎこそ起きなかったものの、金融機関のお互いの信用がほとんど消滅するような事態になりかけた。このとき何よりも重要なのはキャッシュだと言われ、借り入れに依存するビジネスが崩壊しかかった。
ビットコインは金などの価値の裏付けがないと言われている。
しかし国の通貨も現状は同じだ。現代社会の経済の大部分を占める預金は法貨ではないから、その意味でビットコインと同じだ。
金融システムへの信用が揺らいだとき、人々は預金を現金に換えようとする。現金は法貨だからだ。
法貨の価値を失うことがある。2013年に中国とキプロスでは、法貨よりビットコインが確かなものと見なされ大量の資産がビットコインに流れた。
通貨革命は社会をどう変えるか
ここでも経済学者ならではの観点から、社会、経済のシステムに与える影響を詳細に述べている。
仮想通貨と国家の緊張関係
通貨発行権は古くから国家が独占している。ハイエクはそれを問題視して、『貨幣の非国有化』で貨幣発行の自由化を主張した。
国家が通貨発行権を独占する問題点とは、国債の貨幣化によって放漫財政が生じることだ。
野口氏は金融緩和政策の真の目的は国債の貨幣化(財政ファイナンス)であると位置づける。
そして国債の貨幣化の行き着く先は金融危機である。
しかしビットコインの普及した経済ではこうしたことは起こりえない。理由は下記2点だ。
理由1 ビットコインの発行はマイニング(採掘)をして行われる。管理主体が恣意的に発行することはできないから財政ファイナンスはできない。
理由2 インフレが予想されるとビットコインが資産逃避手段として用いられる。
ビットコインの普及は税の問題点を提起する
ビットコインが報酬の支払いに用いられると税務署はそれを補足できない。給与所得者は当分はビットコインに移行しないだろうから、給与所得者に対する課税の重みが今まで以上に膨らむ。
ビットコインが商品の購入に用いられても税務署はそれを補足できないので消費税に関しても問題が発生する。
ビットコインの取引はすべてが公開されているが、その取引と個人や組織との関わりを対応づけるのはきわめて困難だ。
また現時点においても補足できないアンダーグラウンドの取引は存在する。
そのためビットコインの匿名性を阻止しようとするのではなく、税の体系を変える方が現実的である。
野口氏は具体的には外形標準課税がその対応策であると述べている。
ホワイトカラーのオートメーション化
DACとは(Decentralized Autonomous Corporation )の略で、分権化された自動化企業と訳される。管理者がいなくとも自動で運営される組織のことだ。
すでにビットコインの仕組みがDACと言える。ビットコインを株式、マイナー(採掘者)を従業員とする。CEOや管理者は存在せずプロトコルがそれにあたる。株主は世界中に分散されたビットコイン保有者で、それぞれがビットコインを売買するという意思決定を通じて、株であるビットコインの価値が決まる。
もし今後DACが実現していけば、現在ホワイトカラーが担っている情報処理業務が自動化される。
そしてDACを作る人、DACができない業務に従事する人と、他方DACに使われる人とに二極化していくだろう、と野口氏は述べている。
まとめ
本書はビットコインとその技術がもたらす可能性を、ものすごく幅広い視点から、たくさんの事例を網羅しており、読むたびに新たな発見をする。
仮想通貨について知るためだけでなく、現在の通貨のシステムを知るためにも勉強になる本だ。
副題に、ビットコインは始まりにすぎないとあるように、さまざまな新しい取り組み、ビジネスが進んできている。
これらいろいろと出てきている新しい動きを体系的に理解することができる貴重な本だ。