『迷惑な進化』レビュー 進化医学についての最新の研究成果を学んだ

迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか

シャロン モアレム (著), ジョナサン プリンス (著), 矢野 真千子 (翻訳)を読みました。

最近、鈴木祐 (著)『最高の体調』(レビュー)を読んで、進化医学という分野の存在を知り、興味を持っています。

そこでこの進化医学についての本を読み始めています。

『病気はどこで生まれるのか 〜進化医学でさぐる病気のしくみ〜』(レビュー) 井ノ上 逸朗 (著)で、進化医学、ダーウィンの自然淘汰説の基礎的内容を学びました。

進化医学は、ヒトのゲノムが1万年前とほとんど変わっていないのに、環境は1万年前と大きく変わっていることでアンマッチが起こっており、それが様々な現代病を引き起こしていると考えています。

その説には大いに納得するのですが、個人的には、本当にヒトは1万年前と何も変わっていないのかという疑問が湧き上がります。

チンパンジーとヒトのゲノムは98%が同じであることもわかっています。

ではチンパンジーとヒトは98%が同じなのかといえば、明らかに違います。

同じように1万年前のヒトのゲノムと現代人のゲノムが同じであるからといって、ほとんど同じヒトなのかという疑問を感じます。

本書には、そのあたりのヒトの進化に関わる最新の知見が紹介されています。

読む前に持っていた3つの問いのに対する、本書から得た回答を書きます。

糖尿病はなぜ起こるのか

ぼくは糖質制限の理論に共鳴していて、それを実践しています。

糖質制限医療の第一人者である江部康二氏は、ヒトは700万年間ずっと狩猟採集生活を送ってきており、1万年前に農耕生活を始めたばかりのため、穀物による急激な血糖値の上昇に体が対応できないと説明しています。

そして生活習慣病は食後高血糖と血糖値変動による酸化ストレスによって起こっていると、主張しています。

この主張は大いに納得できます。

本書では糖尿病が氷期に適応するために起こった進化であるとの説を紹介しています。

アメリカアカガエルは、冬の間体を凍らせて仮死状態になり、春に復活して活動を開始します。

アメリカアカガエルは、冷凍環境で生命を維持するため、体内の水分量を低くして、体内の糖度を100倍くらいまで高めて、氷点を低くして、臓器や血管の損傷から身を守ります。

1万3千年前に最終氷期である「ヤンガードリアス」がありました。

この氷期に当時の北ヨーロッパの人口が激減しましたが、それでもヒトはしぶとく生き残っていきました。

ヒトもアメリカアカガエルと同様に、体内の水分を少なくし、糖度を高めることで氷期生き残ったのではないかという説があります。

体内の水分を少なくするためには尿をたくさん出します。

そして糖度を高めるために、インスリンを出なくするか、作用しないようにします。

このような遺伝子が受け継がれて、糖尿病になりやすい進化をもたらしたとのではないかと考えられているのです。

現在アメリカアカガエルの冬季を乗り切る機構から、糖尿病治療の何らかの知見が得られないかと研究が進められています。

進化のスピードはゆっくりなのか

遺伝子の変異という観点からみると、変異する遺伝子の数はごくわずかなので、1万年(500世代)で0.005%しか変異しません。

ヒトとは本当にこれほどわずかな進化しかしていないのでしょうか。

著者はジャンピング遺伝子の研究結果を紹介しています。

その研究によると、生物の遺伝子は、突然変異だけでなく、環境からの圧力によって有機的に変化しているというのです。

例えばある特定の機能を持った遺伝子を切り取ってしまう実験手法をノックアウトと呼びますが、ある遺伝子をノックアウトしても、その遺伝子が担っていた機能は再現されるという現象がしばしば起こります。

その有機的な働きは、今までは役に立たないのでジャンクと言われていたゲノムの部分によってもたらされることがわかってきました。

そして、ジャンクの言われてきたゲノムの多くは、ウィルスによってもたらされたのではないかと言われているのです。

著者は、ヒトがウィルスに感染されやすい特質を持つことで、チンパンジーに比べてより早い進化の道をたどったという説を紹介しています。

進化はDNAだけでもたらされるのか

同じDNAを持っている一卵性双生児の健康状態の経過を研究すると、DNAは同じなのに、病気のかかり方は異なっています。

生活を同じにしている子供時代の健康状態はほぼ変わらないのですが、成人してそれぞれ別の人生を歩み始めてから差が出てきます。

ということは、DNAは同じであっても、その遺伝情報が発現するかどうかは、環境要因によって違いが出てくると考えるのが普通です。

最新の研究ではDNAを発現させるスイッチは、メチル化によってもたらされることがわかってきました。

メチル化するかしないかで、ある病気になるDNAのスイッチのオンオフが決まるのです。

このメチル化は、本人の生活習慣だけではなく、数世代前までの親、祖先の影響を受けているというのです。

すでに白血病治療において、このメチル化のオンオフを制御する医薬品が登場しています。

まとめ

進化医学はゲノム(DNA)だけでは説明がつかないということがわかりました。

1万年前のヒトと現代人はDNAにほとんど違いはありません。

しかし、DNAのオンオフを制御するメチル化の起こり方は、本人の生活習慣と、親、祖先の生活習慣によって変わるのです。

非常に興味深いことです。

今後さらにこの分野の研究が進むことで、病気にかかりやすさを予測したり、病気を予防、治療することが更に進むのではないかと期待できます。