勝利はすべて、ミッションから始まる。 村上恭和 (著) 【ブックレビュー】

村上監督といえば、勝負師というイメージがあります。福原、石川、平野という3人のタレント選手を率いて、ロンドンオリンピックで団体戦銀メダルを獲得したシーンは、テレビで何度も放映されて、現在の卓球ブームの火付けとなりました。シンガーポールとの一戦では、ダフルスの組み合わせを直前で組み替えるという奇襲オーダーで、負けてもおかしくない実力の相手を、見事3-0で打ち破ったのです。

本書では、村上監督が日本女子代表の監督を任されてから、どのようにメダル獲得にいたったかについて、その戦略と、組織論が書かれています。村上監督の功績として、単にロンドンオリンピックでのシンガポールとの一戦だけに目が行きがちです。村上監督が、この本のテーマである、「ミッション」を軸に、4年をかけて、環境を整えていった道のりがあり、その結果としてメダル獲得になった、ということを理解することができました。

本書から得た3つの気づきをまとめます。

リーダーは揺るがない「大戦略」を持つ

村上監督は、戦場に向かうまでに立てるものが「戦略」であり、戦場での戦い方が「戦術」である、と述べています。そして、多くの戦いは、戦場につくまでに大勢はほぼ決まっていると強調します。

だから、「戦略」が大事なのです。村上監督は、「メダル獲得」というミッションから、「第2シード獲得」という大戦略を立てました。次に、その大戦略につながる、「小戦略」を3つ立てました。「小戦略」は実現可能な内容までブレイクダウンすることが重要です。

そして村上監督は、その戦略の「伝わり方」に着目しています。「伝え方」ではなく、「伝わり方」にこだわるというのは、相手の視点に立っています。リーダーがいくら声高に戦略を語っても、相手が腹落ちしなければ、その戦略は実行されることはありません。

村上監督は、「伝わる」ために、相手に考えさせる時間を与えることを、重要視しています。

相手に考えさせることは、村上監督の指導方針にも表れています。「教えない」ことが、かえって選手を強くする、が村上監督の持論です。実際にプレーするのは選手であり、自分で納得しないと、体はうまく動いてくれないのです。

ルールを制するものが勝負を制する

スポーツにおいて、勝ち負けを左右するのが「ルール」です。強ければ勝つという単純なものではありません。村上監督はルールに対する興味が人一倍強いと自己を分析しています。卓球に限らず、他の競技のルール変更の情報も収集し、このルール変更がどのように勝敗に影響を与えるかといった問題を考えるそうです。ルールには、大きな変更もあれば、ほとんどの人は気にもとめない小さな変更もあります。小さなルール変更が、勝敗に大きく影響を与えることがあるので、リーダーは常にルール変更には敏感であるべきと村上監督は強調しています。

ルールを重要視するところが、村上監督の勝負師たるゆえんだと感じました。

リーダーは現場で汗をかいてはいけない

村上監督は、「日本で一番球拾いをしている監督」と呼ばれているそうです。村上監督は、球拾いをすることで、練習場を常にうろうろと動き回ります。それによって、選手の表情や動きを観察するのだそうです。以前は、自らラケットを持って、直接選手に指導を行っていたそうですが、ケガでそれができなくなって、直接指導をしない方が結果が出ることに気づいたそうです。

現場から離れることは、村上監督にとって勇気のいることだったそうですが、そのことによって全体を見渡せるようになり、選手達の緊張感も保たれるようになったのです。自らが手を動かさずに、視野を広く取る、それこそがリーダーの役割だと、村上監督は強調します。

まとめ

本書は、村上監督の戦略と組織論がまとめられています。

戦略は、まずはミッションを掲げて、大戦略からいくつかの小戦略に落とし込んで、それを組織にじわじわと浸透させていきます。

組織論は、選手やコーチの自主性を尊重しながら、組織をまとめていくマネジメント手法です。卓球というスポーツで、チームとして力をつけていく方法だけでなく、ビジネスのチームにも適用することができる手法です。

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