幸せの日本論【レビュー】前野隆司著

前野隆司著『幸せの日本論』を読みました。

前野隆司氏は、日本とアメリカの文化の違いを端的に述べました。

アメリカの文化の中心には「愛」と「自由」があり、日本文化に中心はありません。

強いてあげれば、無常、無我、無私などの「無」があると前野隆司氏は解説します。

中心のない日本文化だからこそ、他国の文化をそのまま取り込んで、自国のものとすることができてきたのです。

幸せの日本人論 神道と仏教が融合してできた日本文化

日本文化は、神道と仏教の影響を大きく受けています。

原始宗教である神道が今なお残っているのは、後から入っていきたのが仏教だったからだと、前野隆司氏は述べます。

西洋も最初はギリシャ神話の世界観にもとづく、多神教の文化でしたが、その後ユダヤ教、キリスト教の台頭により一神教の文化に変わりました。

仏教は、他の考え方を駆逐するような宗教ではないために、日本にもともとあった神道と融和してきたのです。

仏教とは科学+哲学だ

前野隆司氏は、仏教は「科学+哲学」であると解説しました。

弟子たちがブッダを崇拝して宗教化してしまったのであって、ブッダは科学者、哲学者であり、宗教の創始者ではありません。

たとえば、ブッダは輪廻転生については考えないとしていて、否定も肯定もしていません。

にもかかわらず、今では仏教の考え方の一部となっています。

仏教を理解する2つの考え方

仏教を理解するためには、2つの考えが重要です。

まず「諸行無常」です。

すべてのものは一瞬たりともとどまっていないということと、絶対的なもの、確実なのものはないという考え方です。

次に「諸法無我」です。

すべてのものには実体がないという考え方です。

脳神経科学的には自由意思は幻想であるという理解です。

この部分は前野隆司氏の「受動意識仮説」にもとづく論理が展開されます。

無意識的な脳神経の活動や、それに接続されている現実社会が主で、私という意識は幻想です。

起こることは、世の中の人、モノ、コトのインタラクションの結果であって、あたかも自由意思で行っているように見えているだけなのです。

欲ですら、その源は我ならざるものからきているといえます。

前野隆司流の悟りとは

前野隆司氏は、悟り(=至福)について、修行を経なくとも、科学の成果の論理的な理解によって、その境地に至ることができると述べます。

すべてのことを行っているのは、無意識的な脳の営みと、身体を介しての外界とのインタラクションによります。

すべての邪念は、所詮幻想です。

生きている自分というのも幻想で、もともと死んでいるようなものだと考えることができます。死ぬことが怖くなければ、他のどんなことだってなんということもないと開き直ることができます。

前野隆司氏のこの言葉が心に響きます。

私が青空を見ているのではない、私という主体は幻想、私は青空であり、青空はすべて、そしてなんでもない。

すべては無である、欲は幻想である、今を生きるだけ、悩みもない、至福です。

仏教にもとづいた世界観を持つ日本人は、前野隆司氏のような論理的な理解がなくとも、感覚的に理解できるのではないかと思います。

日本人の欠点は良い特徴となる

前野隆司氏は24冊の日本人論をまとめたうえで、日本人の10個の特徴をあげました。

その中に「日本人は人の目を気にする」というのがあります。

現代社会において、新しいやり方を試していくためには弊害ともいえる特徴です。

これに対して前野隆司氏は、悪い気にし方と、いい気にし方があると解説します。

人の目を気にするというのは、個人所有の概念がない、相互協調的な自己観にもとづいているというのです。

人の目を気にするという鋭敏な感覚は、集団主義的社会においては、他人の心を気遣うことになり、社会を円滑に維持するために優れた仕組みなのです。

幸せの日本人論 まとめ

前野隆司氏はブログで、日本型と近・現代型の社会システムの比較を載せています。

Takashi Maeno’s blog |『幸せの日本論 日本人という謎を解く』(角川新書)お勧めフレーズ集(7)

日本型システムは、全体が調和し共生する社会モデルで、近・現代型システムは、勝ち残りゲーム式社会モデルです。

現代の日本のシステムはかなり近・現代型に寄ってしまっているため、日本型システムには「理想型」という言葉が追記されています。

私は最近この本の読書会に参加しました。

【オンライン開催(5/13更新)】慶應SDMヒューマンラボ主催「前野隆司著作について著者と語る会」(8/20) | SDM|慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科

その会の中で、前野隆司氏は、この理想型システムは「ティール組織」と非常によく似ていると語りました。

何かと揶揄されることの多い日本型組織ですが、前野隆司氏が提唱する理想型に近づいていけば、日本はもっと活躍できるだろうと今後の希望を感じました。

本書は、前野隆司氏の受動仮説意識にもとづく人間観から導き出された日本人論がまとめられています。

前野隆司氏の前著でも述べられていた考えを補完する、文明論が展開されており引き込まれました。