サブリミナル・マインド 第二講 レビュー 悲しいのはどうしてか 感情のメカニズム

感情の起こるメカニズムについて説明している章です。

感情というのは、なにかの出来事に反応する、心の動きを表したもの、というのが、ぼくの今までの解釈でした。

本章を読んで、感情の湧き上がる過程は、思った以上に複雑で、直接的なことではないということがわかりました。

ぼくたちが抱く感情は、無意識がラベルづけしている結果です。

情動ニ要論とは

心理学では感情のことを情動と呼びます。

下記の二つが満たされてはじめて情動の認知が成立します。

  1. 生理的な喚起(興奮)状態の認知、生理的喚起そのものはなくてもいい、生理的喚起の認知があればいい
  2. 情動ラベルづけ(喚起状態の推定、あるいは原因への帰属)

下條信輔氏は、これをカラオケの機械に見立てて、以下のように例えました。

元のコイン(生理的喚起)は一緒で、それがどのような曲がかかるか (どのような情動が認知されるか)は、曲目ラベルの選択(興奮の原因をどこに帰するか)に依存するというわけです。

ラベルづけとは、曲目を選ぶようなものというのは、とてもわかりやすい例です。

エピネフリン実験

被験者を以下の4群にわけて、エピネフリンを、ビタミン剤と偽って、投与します。

  1. エピネフリンの適切な副作用の情報を伝える
  2. 無情報
  3. 反対の情報を与える
  4. エピネフリンではなく、食塩水を投与する (コントロール群)

エピネフリンとは、神経を興奮させる薬物です。

心拍数の増加、手の震え、呼吸の乱れ、ほてりなどの症状が現れます。

エピネフリン投与のあと、別の被験者(サクラ)がやってきて、難癖をつけて怒り出すか、または陽気にはしゃぎ出します。

結果は、2、3群が4群に比べて強い怒り、または気分の高揚を報告し、1群は4群に比べて情動は弱くなりました。

この実験のポイントは、薬の効果をどのような知識で認知したかで、情動の強さが異なったことです。

すべての群で同じ薬の効果が出ているはずです。

1群では、生理的興奮を薬のせいにできたから、情動を抑えることができたのです。

情動の強まり方は、情動の種類(怒り、気分の高揚)によらず、同じ結果となりました。

人は自分の主観的な情動の経験を決定するために、(1)自分の内側の状態と、(2)その状態が生じている環境とを評価します。

このように、情動は2つの要因によって認知されます。

生理的な興奮はあいまいなもの

生理的な興奮はあいまいなものであることを、つり橋実験の結果が示しています。

つり橋のそばに美人の女性実験者が待機して、女性同伴者のいない男性が通りがかると女性が声をかけ、心理学的研究に協力してほしいと依頼します。

橋を渡っている最中と、渡り終えた後、の両方で深層心理テストを行います。

そのテストをが終わったあと、女性は男性に対して、「今時間がないので、もし興味があれば電話をください」と電話番号を書いたメモを渡します。

深層心理テストは、性的興奮度を表し、電話をかけてきたかどうかは、女性に対する関心を示す、行動的指標となります。

結果は、心理テストによる、性的興奮度、電話をかける人数、どちらとも、橋を渡っている最中の方が高かったのです。

つり橋を渡る恐怖が、性的な感情に影響を与えたといえます。

つり橋の恐怖と性的興奮の間には、生理的にはあいまいな区別しかないことがわかります。

状況の認知(美人に声をかけられた)から、興奮状態を作り出した原因を誤って、魅力的な女性との出会いに帰属させてしまったのです。

エピネフリン実験とは違って、つり橋を渡っているという、緊張や興奮の原因が比較的明らかな場合さえ、異性に対する関心や興奮と、いとも簡単に混同してしまうことに驚きをおぼえます。

結局、生理的な興奮そのものは、さまざまな情動の間でよく似ており、どの情動に至るかはという点ではまだ「未定」なものなのです。

生理的な興奮そのものではなく、その「認知」が必要

情動二要論の1つめの、生理的喚起の認知は、生理的な興奮そのものがなくても成立することを示す実験があります。

偽の心音実験

10枚のヌード写真を見せながら、心拍音を測定すると被験者に伝えます。

その際、スピーカーから、心拍音が聞こえると伝えた群、雑音が聞こえると伝えた群に分けます。

任意の写真で心拍(雑音)数が上昇する、下降するようにあらかじめ操作しておきます。

それぞれのヌード写真について魅力度を評価させました。

いずれも、心音が速くなった写真の評価が著しく高いことがわかりました。

つまり、実際に生理的な興奮が起こっていなくても、「自分は今生理的に興奮している」という認知されあれば、情動のラベルづけを行い、情動の認知が起こることがわかりました。

生理的な興奮の自己の認知が必要条件であることがわかったのです。

自己の経験のメカニズムは薬理学的な世界のことではなく、(無自覚とはいえ)あくまでも心の世界のものであることがはっきりしたといえます。

「逆偽薬」効果の実験

不眠症の学生に乳糖を用いた偽薬を与えました。

それぞれ2つの副作用の情報を与えました。

  • 「興奮副作用」条件
    この薬剤は生理的興奮を高める、体温が上昇しドキドキするかもしれない
  • 「リラックス副作用」条件
    この薬剤は生理的活動を低下させる、寒く感じるかも、心身をリラックスさせる

結果は、興奮条件を与えられた学生の方がよく眠れました。

興奮副作用とは、不眠症の症状と同じです。

就寝時に強く自覚される生理的興奮を100%薬のせいにでき、生理的興奮の情動へのラベルづけが起こりにくく、情動認知が低くなったのです。

リラックス副作用条件では、鎮静剤を飲んだのに、依然として興奮を自覚するので、それをいつもより高く推測し、普段より強い情動認知をしました。

この実験結果も、生理的興奮そのものではなく、その認知過程が重要であることを示しています。

被験者に対するインタビューでは、偽薬効果が確認できました。

それぞれ、普段より興奮ぎみ、鎮静ぎみという、伝えたとおりの副作用を述べたのです。

しかし、就眠に要した時間で見ると「逆偽薬」になっている

これは、原因帰属の過程は無意識のレベルに存在していることを物語っています。

無意識な過程は行動に、意識的な過程は言語報告に現れます。

実際の行動と、本人の意識や言語報告に、乖離が見られることは、とても興味深い事実です。

罪の意識や犯罪行動も認知次第

犯罪や、ルール違反を犯すといった社会的行動についても、情動のラベルづけが関わっています。

これは偽薬を用いた実験です。

被験者に、以下の2つの副作用情報をあらかじめ与えます。

  • 心拍数の増加、手の震え、発汗、顔のほてり、胃の膨張
  • あくび、まばたきの減少、目の疲労

前の方の副作用を伝えた群の方がカンニングをしやすい傾向が出ました。

罪の意識は、緊張の生理的喚起を起こさせます。

それを薬の副作用に帰属させることができ、緊張の軽減、罪の意識の軽減につながったのです。

後ろのほうの副作用を伝えた群では、このような帰属ができません。

偽薬を用いたということは、生理的喚起そのものを変えることなしに、罪の意識のような社会的起源を持つ情動を操作できたのです。

それは、行動にも現れ、実際の犯行率まで操作できたことになります。

まとめ

生理的興奮そのものは、情動の種類にかかわらず、あいまいで似かよっています。

それを、無意識に認知(ラベルづけ)した結果として感情が生じるのです。

ラベルづけは、自己認知原因帰属です。

罪の意識のような社会的起源を持つ感情についても、同様のメカニズムがはたらきます。

この無自覚の認知過程は、感情だけではなく、行動にも現れます。

このときの言語報告は乖離します。

わたしたちの知覚態度行動は、いずれも無自覚のメカニズムに支えられており、私たちが自覚的に体験し、言葉で報告できるのはその出力の部分だけ、それもほんの一部だけであるかもしれないのです。