野口悠紀雄(著) 『虚構のアベノミクス――株価は上がったが、給料は上がらない』 を読みました。
アベノミクスの本質、それは人々の「期待」を高めたことだけだと野口悠紀雄氏は言い切ります。
アベノミクスは期待を高めて資産価格の上昇(バブル)を起こしましたが、そのバブルを契機とした実体経済の好転は起こらなかったのです。
実際に、賃金の低下と設備投資の減少が今も続いています。
バブルになりやすい資産は以下の4つです。
それは、為替レート、株価、不動産価格、国債価格です。
これらの資産は実体経済とは関係なく動いてバブルを起こすため、これらの指標が上向いたからといって喜んではいられません。
本書を読んで学んだ内容を3つまとめます。
『虚構のアベノミクス』経常収支は赤字にはならない
貿易収支の赤字が続いています。(本書刊行時点、16年度から黒字に戻っています)
ぼくは日本は貿易立国であるから、当然貿易収支は黒字を維持しているはずだろうと思い込んでいました。
円安の影響でLNGなどの原材料輸入価格が上昇する一方で輸出額は増えていないことが貿易赤字となっている要因です。
一部輸出製造大企業が利益を伸ばしているのは、販売量が増えているのではなく、円安によって円建て計算上の利益が上がっているからです。
しかし貿易収支の赤字となっても、経常収支は黒字を継続しています。
2012年の所得収支は所得収支14兆円、サービス収支マイナス2兆円となっていて12兆円の黒字です。
この黒字の構造はすぐには変わらないと野口氏は解説しています。
経常収支の黒字を続けていることで、日本は世界一の金持ち国となっています。
野口氏は、対外資産を取り崩せば国債の国内消化はあと100年は可能と述べています。
日本の先行きについて悲観的な警笛を鳴らし続けている野口氏には異例の明るい見解です。
ちなみに経常収支は赤字であっても、産業が強ければ安定したコストで資産調達ができます。
実際に、アメリカ、イギリスは巨額の赤字を出していて、しかもアメリカの国債の国内消化は50%、イギリスは30%です。
それでも国債金利が暴騰していません。
日本はイタリア、ギリシャと違うのか
日本の財政赤字のGDPに対する割合は上記3カ国の中でも一番高くなっています。
では、イタリア、ギリシャのように金融危機になった国と何が違うのでしょうか。
違いは金利です。
2012年の10年債の金利はギリシャは30%、イタリアは7%であったのに対して、日本は0.9%です。
イタリアの国債は外国の金融機関やヘッジファンドによって購入されていました。
その資金は短期資金が原資であり、少しでも不安要素が高まると売り圧力が高まります。
一方、日本の国債は日本の金融機関が所有しており、定期預金や保険のような長期資金を原資としています。
多少の不安が生じても、償還満期を迎えるまで保持することで損を回避できるので、売り圧力が高まることはありません。
日本にチャンスは残されているのか
70年代から80年代はイギリスもアメリカも低迷を続けましたが、90年代に復活しました。
その復活は政府主導ではなく、規制緩和をきっかけとして起こりました。
またその成長で外国人の果たした役割が大きかったのです。
日本もこれに見習うべきと野口氏は強調します。
日本が本来持っている活力を解放するには、規制緩和をして既得権益の構造を打破し、外国人の登用を行うべきなのです。
まとめ
野口悠紀雄氏の書籍をこのところ続けて読んでいますが、その多くが日本の進路に悲観的な警笛を鳴らしています。
しかし、本書では日本の経常黒字の構造に触れ、国債の国内消化があと100年持つという見通しを述べています。
これが、日本の見通しを明るくすることには直結しませんが、現時点で日本は世界一の金持ち国であることを再認識しました。
だからこそ、このような余裕を持っているうちに、成長産業を生み出し、虚構ではなく、実体経済が成長する社会になってほしいと真に願います。