野口 悠紀雄 著『変わった世界 変わらない日本』を読みました。
読もうと思ったきっかけは、日本記者クラブで開かれた野口悠紀雄氏の講演がとてもおもしろかったからです。
この講演で野口氏は、日本経済停滞の原因は垂直統合型の産業構造にあると主張しています。
一方で先日読んだ経済産業省出身の宇佐美典也氏の『逃げられない世代』(レビュー)では、
日本の基本的安全保障モデルは「資源を輸入して、フルセット型の産業構造で国内の需要を賄いうる経済体制を整備し、余剰を輸出して貿易黒字を維持する」であると説明しています。
それが続く限りは、あと20年は国債を国内で消化でき、国民による社会保障や消費税の負担を増やしながら、財政破綻を避けることができると理解しました。
しかし、野口氏の予測はもっと危機感に満ちています。
印象に残った3点をまとめます。
リーマンショックの影響を一番受けたのは日本 『変わった世界 変わらない日本』
2008年秋以降の日本のGDPは年率12.1%のマイナスという、ユーロ圏、アメリカを大きく下回る下落率となったのです。
アメリカは輸入国なのでGDPに対する影響は緩和されますが、輸出国である日本は、輸出減の影響を大きく受けます。
実際に2009年1月には対アメリカ輸出額はマイナス52.9%、対中国はマイナス45.2%と大きく落ち込んだのです。
リーマンショックの原因となったアメリカの住宅バブルの背後には、巨額の日本からの投資がありました。
そして日本の製造業は、2002年からのアメリカの住宅バブルから派生する需要を取り込むため大きな設備投資を行ったため、バブル崩壊の影響をもろに食ってしまったのです。
日本経済の問題点は価格下落ではなく所得下落である
日本の賃金は1997年をピークに16年間で12.8%下がっています。
年率およそ1%です。
野口氏は、製品価格が下がったから、賃金も下がったのだという論理を明確に否定しています。
その証拠に、物価が大きく下がった製造業の賃金は上がり、物価の大きく上がった保険・医療分野の賃金は大きく下がっています。
つまり、製造業においては需要減に伴い、雇用の削減が行われた結果賃金が上昇し、あぶれた労働者は需要が高まった介護・福祉などの低生産性サービス業に従事することとなり、労働者が増加した保険・医療分野は賃金が下がったのです。
つまり、賃金とは製品価格ではなく、労働市場によって決まるのです。
ですから、金融緩和策では賃金を上げることはできないわけです。
企業の内部留保をなんとかせよとの声もありますが、これは企業の価値である株価を高く維持するために配当や投資に回り、賃金には回ることはありません。
野口氏は所得を上げるためには、生産性の高い産業が登場する必要があると、強調しています。
インフレ税とは
インフレになると貨幣の価値が下がり、実質所得と、預貯金の価値が下がります。
国債の価値も下がることとなり、家計から国に資産の移転が行われることとなります。
すなわちインフレ=税であり、国民にとって等しく重くのしかかる過酷な税になります。
実勢に第二次世界大戦後の日本では、物価指数が208.8となるインフレが起こりました。
諸外国でも70年代のイギリス、イタリア、1997年の韓国、タイ、1998年のロシア、2008年のアイスランド、2011年のアルゼンチンと頻繁に起こっています。
まとめ
国民の財産を守り、生活を維持していくために、インフレ(財政破綻)は避けなければなりません。
個人の防衛策としては、円で持っている資産の一部をドルや現物に変えておくという方法もあります。
野口氏が講演や著書で繰り返し主張しているように、一刻も早く生産性の高い産業を作っていくことが、財政破綻を食い止める根本的対策であるとわかりました。
日本社会の先送り体質を変えるためには、外部からの圧力というのが必要になるのではないでしょうか。
すでに多くのサービス産業では外国人労働者が入ってきていますが、大手企業の中枢部にも外国人を登用していくことが必要な時期にきていると思います。