日本糖質制限医療推進協会主催 講演会 2017東京 【レビュー】2017/10/8

糖質制限医療推進協会講演会

2017年10月8日、東京 日比谷図書文化館大ホールにて開催された、日本糖質制限医療推進協会主催 講演会に参加しました。

「内科、眼科、産婦人科医がみた 糖質制限食のチカラ」というテーマで、下記のような豪華な内容でした。

内容:

第1部: 「糖質制限食 概論と糖尿病治療」 江部 康二 医師 (高雄病院理事長/当会理事長)

第2部: 「眼科医、産婦人科医だからこそ、言えること」

(1)「糖尿病性網膜症と糖質制限~最先端手術の現場より」深作 秀春 医師 (深作眼科理事長)

(2)「妊婦、赤ちゃんの健康とケトン体」宗田 哲男 医師 (宗田マタニティクリニック院長)

第3部: 質疑応答

糖質制限食の基礎と、眼科分野、産婦人科分野での糖質制限の効果をとてもわかりやすく学ぶことができました。

ではそれぞれの講演内容のレビューを記載します。

日本糖質制限医療推進協会主催 講演会「内科、眼科、産婦人科医がみた 糖質制限食のチカラ」【セミナー受講録】

第1部: 「糖質制限食 概論と糖尿病治療」 江部 康二 医師 (高雄病院理事長/当会理事長)

糖質制限食は人類本来の食事

ヒトの歴史は700万年で、農耕を始めてからは1万年です。

ヒトは700万年のほとんどを狩猟採集の生活をしてきました。

そのため、ヒトは進化発展の過程で、糖質を摂らずに生活してきたと言えます。

日本では弥生時代以降なので農耕は2000〜3000年の歴史しかありません。

日本人の化石からのデータがそれを物語っています。

旧石器時代の日本人の虫歯率0%です。その時代はほぼ肉食の生活をしたと考えられています。

縄文時代の虫歯率は8%です。その頃は、狩猟、漁猟、木の実が3分の1ずつのの生活でした。

弥生時代の虫歯率は16%に跳ね上がります。この頃に米作が始まりました。

現代人は80%が虫歯を抱えています。

弥生時代と現代の違いは、現代は精製された炭水化物を摂取していることです。

700万年間のほとんどの間、食後血糖値の変化は+10〜20mg/dlに保たれていました。

そして農耕開始後に食後血糖値の変化は+40mg/dlに増えました。

精製炭水化物を食べるようになった現代人の食後血糖値の変化は+60〜70mg/dlとさらに増えています。

食後血糖値の変動幅と、大量のインスリンが頻回に分泌されることが合わさって、酸化ストレスとなり様々な生活習慣病を引き起こしていると江部氏は解説しました。

現代人のようにインスリンが頻回かつ、大量に出る事態は非常事態であると江部氏は表現しました。

現代のように糖質を頻回に摂取する状況に、人体はまだ適応できていないということなのでしょう。

グルコースミニスパイクと生活習慣病

現代人は1日に3〜5回、精製炭水化物を摂取します。

健康人であっても、食事や間食のたびに、食後血糖は50〜60mg/dl上昇します。

その都度基礎分泌の10〜30倍ものインスリンが追加で大量に分泌され、体は救急車状態となります。

食後血糖値の上下をグルコースミニスパイクと呼び、インスリンの追加分泌と併せて酸化ストレスを生みます。

このことは、血糖測定器を用いると実感できます。

僕も自分の体で実験してみたところ、白米やラーメンを1人前食べただけで、食後血糖値は150mg/dl近くまで上昇することを確認しました。

江部氏は180mg/dlを超えるとリアルに血管障害のリスクとなり、その前の段階としては140mg/dlが危険域であると解説しています。

この酸化ストレスは、アトピー、アレルギー、生活習慣病の根本原因となることがわかっています。

糖質制限食は、ダイエットに有効なだけでなく、生活習慣病を防ぐために必要な食事方法なのです。

脂肪は悪者ではなかった

江部氏は2010年に発表された、21論文、約35万人のメタアナリシス(複数の論文を併せて解析する方法)を紹介しました。

この論文で、飽和脂肪酸(動物性脂肪)の摂取量と脳心血管イベントとの発生には関係がないことが証明されたのです。

また、脂肪を摂ると太ると、多くの人は思っています。

脂肪摂取は肥満の原因ではないと江部氏は断言しました。

脂肪蓄積を担っているのは、インスリンです。

インスリンは体内の脂肪分解を抑制し、余剰の血糖をを脂肪として蓄える働きを持ちます。

糖質の摂取がインスリンの過剰分泌を促し、インスリンの働きで肥満になるのです。

つまり、肥満の原因はずばり糖質なのです。

江部氏自身の結果

江部氏は自らが糖尿病を発症した2002年から、スーパー糖質制限食を実践しています。

スーパー糖質制限食とは、毎食糖質を20g以内に制限するという食事方法です。

糖質制限食開始半年で10kg減量し、すべての検査データは正常になったそうです。

江部氏は現在67歳でありながら、歯は全歯残っており、眼は裸眼で広辞苑が読めて、身長は縮んでおらず、夜中におしっこで起きない、内服薬はなし、という若々しさを保っています。

この結果がすべてを物語っているのではないかと思います。

現行の日本の糖尿病治療の問題点

現行の日本の糖尿病治療は「カロリー制限食と薬物療法」です。

カロリー制限食では、糖質が総エネルギーの60%を占めます。

この食事では、食後高血糖と血糖値の変動幅増大は避けられません。

糖尿病の合併症発生が依然として減っていないのは、現行の糖尿病治療がうまくいっていない証拠だと江部氏は強調しました。

糖質の総エネルギー比を40%にした米国では合併症が激減しているという事実が、江部氏の説の正しさを後押ししています。

「糖尿病性網膜症と糖質制限~最先端手術の現場より」深作 秀春 医師 (深作眼科理事長)

糖尿病性網膜症は3000人以上が毎年失明していて、失明原因の20%を占めています。

硝子体手術の近代化により、治せる病気になりつつありますが、日本ではまだまだ放置されている現状があるそうです。

緑内障も糖尿病性が多いそうです。

講演では様々な最先端の手術の動画が紹介されました。

身の回りの眼科の常識には、実は非常識なことが多いとの話しが印象に残りました。

また、深作氏は糖尿病性の網膜症で、内科に紹介して薬物で急激に血糖を下げると、網膜症が悪化することを多く経験していると語りました。

急激な血糖変化幅は酸化ストレスを生むという、江部氏の講演内容とも一致する話しでした。

眼科医の専門的な話しは今回初めて聞きました。

深作氏は世界最高の眼科外科医に送られるクリチンガー・アワードを受賞しているスーパードクターでありながら、江部氏と同様に従来の治療法に疑問を唱え、孤軍奮闘しているという姿勢に好感を持ちました。

著書も多く出されているので、今度読んでみたいと思います。

「妊婦、赤ちゃんの健康とケトン体」宗田 哲男 医師 (宗田マタニティクリニック院長)

妊娠糖尿病とは

この講演で始めて妊婦糖尿病という病態を知りました。

定義は「妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病にいたっていない糖代謝異常」です。

つまり、糖尿病でのお産は危険なので、その前段階で積極的に治療しようということです。

75g糖負荷試験で空腹時(92mg/dl)、負荷後1時間(180mg/dl)、負荷後2時間(153mg/dl)の3ポイントのうち1ポイントでも基準値を上回ると、妊娠糖尿病と診断されるそうです。

妊婦のスクリーニングで7〜9%の頻度で見つかるそうです。

妊娠糖尿病においても、現行の糖尿病食と同じカロリー制限食が適用となり、糖質が60%含まれている食事になります。

食後血糖値が高い場合は、6分割食という間食を食べる方法や、インスリン注射が用いられます。

このような従来の治療では、次の妊娠時にも再発し、将来は70%が糖尿病に移行するというデータがあります。

宗田クリニックでは、糖質制限食を導入して、妊娠糖尿病だけでなく、1型、2型の糖尿病でも血糖をコントロールして無事にお産ができた症例をいくつか紹介しました。

注目されてきたケトン体のメリット

宗田氏はこのような糖質制限食でのお産の症例を学会などで発表した際に、ケトン体が増加することに批判が集中したため、これをきっかけにケトン体の研究を開始したそうです。

ケトン体は「代謝における危険な産物」というのが、従来の医療関係者の認識です。

そして宗田氏は胎児と新生児のケトン体を測定したところ、非常に高値であることがわかりました。

胎児、新生児はブドウ糖ではなく、ケトン体を主なエネルギーとしていることが裏付けられました。

また、妊婦は糖質制限食をしていなくてもケトン体が上昇しているそうです。

母乳は脂肪含有量が多くケトン体を生成します。

宗田氏は新生児ではケトン体は脳の重要なエネルギー源になっていることを解説しました。

離乳食は100%糖質のおかゆではなく、肉食の離乳食を用いるべきと宗田氏は力説しました。

ケトン体の有用性は様々な領域で注目されてきています。

2016年には、ケトン体がてんかん治療に有効であることがわかって治療に応用されるようになりました。

ケトン体が認知機能の向上に役立つことも日本初で発表されています。

またSGLT2阻害薬という糖を尿に出す薬により、心血管疾患の死亡率を下げたという研究が紹介されました。

この研究結果は、人間には糖は必要ないということを物語っています。

最後に宗田氏はがんについても言及しました。

がん細胞はブドウ糖のみを栄養源としていて、正常細胞はブドウ糖とケトン体の両方を栄養源とすることができるのです。

つまり、糖質制限食はがん細胞の増殖を抑えることが期待されます。

僕が最近読んだ本でもがんへの効果を解説しています。

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まとめ

今回の講演会を聴いて、あらためて糖質制限食は、人類本来の食事であり、健康を維持する食事であることが強く理解できました。

僕も江部氏のように糖質制限食を長く続けて、若々しい脳と体を持ち続けたいと思います。

世の中に糖質オフの食材がどんどん増えてきていることはうれしい限りです。

外食でも、自炊でも糖質制限食が容易に実践できる世の中になれば、国民医療費も大幅に削減できるようになると思います。